針のこと

 突然ですが、ちょっと長い、針のお話です。

 今年になり、各所でレッスンを持たせていただく中で、受講生の皆さんに使っていただく材料と道具のキットを作りました。道具の中で、特に針はどれを使っていただくか色々と悩みましたが、以前から私自身が使いやすいと思っている みすや忠兵衛「京都本みすや針」の刺し子針を選びました。 


 私自身は、「刺し子針」と「溝大くけ」、あともう1種類他メーカーのものを使うことが多いですが、今日の記事では、みすや忠兵衛さんの商品を特筆したいと思うので、使い分けについてはまた後日機会があれば書き記そうと思っています。

 刺し子針と溝大くけ、それぞれの長さの違いは下の写真のとおりです。
(※現在、刺し子針と刺し子針(長)は同じ商品です)

 具体的な数値で表すと
「溝大くけ」太さ 0.89mm 長さ 51.5mm 
「刺し子針」太さ 0.96mm 長さ 54.5mm です。


 刺し子をはじめて、楽しさだけで針が進む最初のうちは、刺し子ふきんのキットに封入されている針や、同じ売り場で一緒に購入できる針をなんとなく使うことが多いのではないかと思います。そのうちに、ちょっと針が黒ずんで滑りが悪くなり買い換えたいけど他にも刺し子針ってあるのかな?とか、もっと刺し心地の良い針があるのかしら?とか、針が違うともっと綺麗に刺せるのかな?というように、針についての探求心が深まってくるのではないかと思います。私はそうでした。

 刺し子を通じて様々なお話を伺う機会が増える中、「使う針はどう選んでいますか?何が使いやすいのかよくわからなくて困っています」という話が多々あり、色々と私が使ってきた針の遍歴や、何を比較してどう感じたのかなどのこだわりをお話したあと、「自分にとって使いやすい針が一番ですよ。」とお答えするのは、もしかしたらちょっと不親切なのかもしれないと思うようになりました。

 たしかに、自分が使いやすいと思うものを、それぞれが思い思いに使えばいいことには間違いないのですが、道具の良し悪しや使い方、使いこなせているかどうかというのは、作品の出来ばえに案外直結しているなと思っています。そういう意味では、自分に合う…というか、自分が気に入る道具に出会うための知識や情報は、具体的に「これ」というものをはっきりとお伝えした方が、わかりやすくてよいのかもしれないですよね。その人に合うかどうかはその人が決めればよいのですから。

 刺し子でも刺しゅうでも、針の太さは、生地の厚さや布目の粗さ、または、使う糸の太さによって決めればよいと言われています。長さは自分が持ちやすい長さを選ぶこと。まずはこれでいいのではないかなと思います。一般的に「刺し子糸」と呼ばれるものは20番手の木綿糸が4~8本撚り合わさっているものが多くて、縫い糸のカテゴリとしては太めだと思うので、針の穴にスムーズに糸が通せるとすると、穴が大きい=太い針 というチョイスがごく自然かと思います。そして、針が太いということは、寸法が長いことが多い。もちろん太くて短い針もあるのですが、まっすぐ長い距離を縫いたいと思うと、皿付きの指ぬきを使う選択肢がそこに加わるので、少し長めの針をおすすめしています。


 みすや忠兵衛の刺し子針には、長さと太さの異なる5種類があります。この5種類の刺し子針をひとまとめにして売られているのが、「取合せ」というもの。特短・短・中・長・特長が1本ずつ入っているので、まずはこの5本の中からどれが縫いやすいか比較してみるといいですよね。

 みすやさんの針の特徴は、鋭い針先と手になじむ粘り。これを刺し心地の良さという一言で表現するのはもったいないなと思います。職人さんの手で縦研磨された針のしなやかさと硬さと鋭さという相反することを他の針ではなかなか体感できないように思います。針がスムーズに布目を通っていくので、糸こきがとても楽にできるのも気持ちがいい。このしなやかさが、自分の手指の動きに合わせてきてくれる感覚もあります。


 せっかくなので、更に特徴を語るとすれば、糸を通す針穴の大きさについても知っていただきたい。刺し子針という名称で売られている針のほとんどは、この針穴が楕円形に長く大きくあけられています。その理由は、太い刺し子糸をスムーズに通すため。でも、この穴の大きさが実は糸にとって重要で、穴が大きければ大きいほど中で糸が上下に大きく動き(遊び)、糸割れを起こしやすいばかりか毛羽立ちの原因にもなっています。みすや針の針穴は、刺し子針としては穴が小さいので、糸が割れてしまって困っている方には、その違いを体感していただけたらと思います。針穴が小さいことで、糸が針からすべり落ちることも少なくなるので、縫いもののストレスとされる事柄をことごとく軽減してくれる良きパートナーのような感覚です。

 下の写真で見てわかるように、針穴の大きさの違いは一目瞭然。大きくはないけど決して小さくもないという絶妙なサイズということが伝われば幸い。


 「自分にあう針ってどれだろう?」お裁縫が身近な人にとってはイメージしやすいことも、刺し子…というより、縫いものそのものが自分でもわからないくらい久しぶりと言う人にとっては、基準がひとつあると難しいと思っていた針選びもより自分好みを主張していけるのかなと思っています。ただ、間違ってはいけないなと思うこともあって、予算や好みなど自分の条件にあう道具を探すこと自体はとても大切なことだけど、その道具を使いこなせるように工夫したり練習したりすることも案外大事かもしれないなと思っています。

 そんなことを考えながら…「自分にあった針を使ってください」と言われて露頭に迷うより「この針使ってみてください」と言われた方がずっとわかりやすくていいなと思ったので、針について書いてみました。


 みすや忠兵衛さんは、公式HPでも刺し子針の購入は可能ですが、楽天市場の京こばこが品揃えが豊富です。


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